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≪伝説・言い伝え≫
鬼伝説

【 青森県 弘前市(ひろさきし) 】

 昔、村に有名な鍛冶屋がおりました。刀を打つ技が評判でしたが鍛冶屋には娘が一人居るだけで、自分の技術を伝える跡継ぎがいないのが唯一の悩みでした。

鍛冶屋の娘はとても美しく、遠くの村にも伝わるほどの評判でしたが、鍛冶屋は「一晩に10本の刀を打ち上げる技量を持った男でなければ、娘を嫁には出さない」と決めていたので、最初は挑戦する者もあったが、一人として成功しませんでした。

そんなある日、見たことのない、やせ細った若い男が娘の評判を聞きつけて、是非、嫁に欲しいと申し出てきた。
男は「必ずや10本の刀を一晩で打ち上げる」と言い張り、鍛冶屋はそのひょろりとした体格に眉をひそめ疑ったが、とりあえず刀を打たせてみることにしました。

男は一つだけ鍛冶屋に懇願し、「夜の間、けっして鍛冶場をのぞいてくれるな、誰かにのぞかれると仕事に集中できない」というのだ。 鍛冶屋はこの男の申し出はもっともだと思い感心し、絶対にのぞかないことを約束した。

さて、男が鍛冶場に入るやいなや、トンカントンカンと地金を打つ音、ゴーゴーという※鞴(ふいご)の音が鳴り出した。
娘は、身元も知らないこの男の妻になるのは嫌だったので、気づかれないように小屋の影から男の姿をのぞいてみた。
すると、なんと恐ろしいことにこの男は鬼で、体を真っ赤にして口から炎を吹き出して、刀の地金を打ち付けており、娘が見ている間にも、次々と刀が出来上がっていきました。
このままでは、この恐ろしい鬼に嫁がねばならない、何とかしなければと、娘は隙をうかがって鬼の仕事を見張っていました。

東の空が明るくなり始めたころ、鬼はとうとう10本の刀を打ち上げたが、さすがの鬼もこれには疲れたらしく、「どれ日が出るにはまだ一刻以上ある、少し横になって寝るとするか」とつぶやくと、高いびきをかいて眠ってしまった。
そこで娘はここぞとばかり、こっそりと一振りの刀を鍛冶場から盗みだし、家の納戸に隠してしまった。 それと知らぬ鬼は、朝になるとまたやせ細った若い男に化けて鍛冶屋の前に現れ、「確かに刀を十腰こしらえました。見て下さい」と若者が言うので、鍛冶屋が確かめに鍛冶場に入り、当時、刀は、腰にぶら下げるものだったから、鍛冶屋が一腰(ひとこし)、二腰(ふたこし)と数え始めた。

鍛冶屋が九腰まで数えると、十腰目が無い。鬼が化けた若者は、「十腰無い。十腰無い。」と叫んで、悔しい思いで山のほうに駆けていってしまった。

鬼にまつわる話をもう一つ、鬼沢が長根派(ながねはだち)という地名であった頃、岩木山周辺は阿曽部(あそべ)の森と言われていた。

そこに弥十郎という農夫がいて、岩木山中の赤倉沢で鬼と親しくなり、よく力比べと称して相撲をとっては遊んでいました。
弥十郎は鬼に度々仕事を助けてもらっていたので、その際、水田を耕しているが水不足で困っている事を話した。

それを聞いた鬼は「それでは私の仕事をしている所を見てはいけない」と告げ、赤倉沢の上流、王余魚沢(かれいさわ)から一夜にして※堰(せき)を造り水を引いてくれました。

弥十郎はじめ村人は大いに喜び、この堰を鬼神堰(きじんせき)とか逆堰(さかさせき)と呼び感謝しましたが、弥十郎の妻が仕事をしている所を見てしまったことが鬼に知れてしまいます。

そこで鬼は堰をつくる時に使った、鍬(くわ)とミノ笠を置いて去り、二度と姿を見せなくなったので、弥十郎はそれらを持ち帰り祀ったのが鬼神社の始まりと言われています。 そして、地名を「鬼沢」としたのである。

 岩木山

鬼神社

本殿にはいると正面に拝殿があり、上方には三枚の扁額(へんがく)が飾られている。扁額には鬼神宮と書かれているがこの鬼という字には、上部のノがない。これは、ツノのない優しい鬼だと言うことを表している。

【住所】青森県弘前市鬼沢字菖蒲沢151

 

※現在の鬼沢にも「鬼神社」が祀られており、角のない優しい鬼として村人に慕われている。

また、鬼神堰(きじんせき)など、鬼が造ったという川は今でも現存し、下流から上流にのぼって流れているように見える。

また、弥十郎という農夫と鬼が相撲をとったといわれている「鬼の土俵」などもあり、ここ津軽鬼沢には点々と鬼にまつわる石碑や神社が建立されている。

風習としても鬼沢では、節分の日に豆をまかない。また、端午の節句には、蓬(よもぎ)や菖蒲を屋根の上に置かないといういわれがある。

 

※鞴(ふいご)
   鞴(ふいご)は、金属の加工、精錬など
   で高温が必要となる場合に、燃焼を促進
   する目的で使われる道具。

※堰(せき)
   農業用水・工業用水・水道用水などの
   水を川からとるために、河川を横断して
   水位を制御する施設

 



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