【 北海道 新得町(しんとくちょう) 】
十勝川(とかちがわ)の上流が、パンケニコロベツ川を合した下流に、カムイロキというところがある。カムイロキとはアイヌの言葉で、神の座とも云うべき所で、熊の越年する穴が有ったところからそう名付けられました。
昔一人のアイヌの民が山の頂から縄を下げてこの穴に入ったところ、それっきり帰ってこないので、その子供が父を探しに入ったが、これもまた帰ってこなかった。その後はここに入ったものは帰ってこれないことから木幣(イナウ)を立てて祈り、ここに入ることを厳しく戒めました。
また、このカムイロキには昔、フレウという巨大な鳥が住んでいて、毎日遠くの浜まで行って、鯨(くじら)や魚類を獲ってきて食べ、その食べ残しや骨を山の窪に投げ散らかしていたが、人間には決して悪戯をしなかった。
ところがある日のこと、フレウがいつも飲み水にしていた綺麗な流れの小川を、娘が尻をまくって渡ったので、フレウは大変憤って娘を嘴(くちばし)でくわえて山に連れて行き、カムイロキへ投げ捨て「こんな人間に汚された所には居られない」といって、遠くの国へ飛んでいってしまった。
残された娘は帰ることも出来ないので、フレウの食べ残しの骨などをしゃぶっていたが、それっきりどうなったか分からなくなってしまった。
それから数年たって一人の青年が熊狩りに行って道に迷い、鯨の骨など散らばっているところへ行ったところ、ふしぎな女が現れて「連れていってくれ」といった。気味が悪いので逃げ帰ったが、青年はそれから間もなく病気にかかって死んでしまった。
それ以来、集落の人達はここをウェンシリ、良くない土地と言うようになったが、そこには今もフレウの棲んでいた穴が残っているという。
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